2026-11-03

先日、部下が真っ青な顔をして報告に来ました。自信満々で出した企画が、ボツになった直後のことでした。「すみません、負けました…」。かつての僕なら、正論をぶつけていたかもしれません。でも、その時の僕は、何も言えませんでした。

 

昔の自分と、痛いほど重なった

 

その声は震え、まるでこの世の終わりのような絶望感が漂っていました。

 

「僕の責任です」と、ひたすら自分を責め続ける彼。

 

かつての僕なら、ここでこう言っていたかもしれません。「何を言ってるんだ、次頑張ればいいじゃないか」と。あるいは、「負けた原因を分析しろ」と正論をぶつけていたかもしれません。

 

でも、その時の僕は、何も言えませんでした。なぜなら、彼のその姿が、昔の自分と痛いほど重なったからです。

 

今日は、体育会系特有の「勝ち負けの呪い」と、そこから抜け出すために僕自身が必要だった「視点の転換」についてお話しします。これは、部下への指導論であると同時に、僕自身の自戒の記録でもあります。

 

ビジネスを「トーナメント」だと思っていた

 

僕も彼と同じで、ずっとスポーツの世界で生きてきました。そこにあるのは、シンプルな「勝ち負け」の世界です。

 

特にトーナメント戦。負けたら、そこで夏が終わる。引退が決まる。「敗北」は即ち「終了」を意味します。

 

この強烈な体験が染み付いていると、ビジネスの現場でも無意識にこう思ってしまうんです。「失敗したら、自分の価値はゼロになる」

 

勝てば官軍、負ければ賊軍。成果が出なければ生きている意味がない。そんなヒリヒリした感覚で仕事をしているから、確かに馬力は出ます。

 

でも、その代償として、心はずっと張り詰めっぱなしです。一回のミスで「もう終わりだ」と絶望し、立ち直れなくなる。

 

僕自身、そうやって何度もポキリと心を折ってきました。

 

「試合」ではなく「トレーニング」として捉え直す

 

そんな僕が、少しだけ生きやすくなったきっかけがあります。それは、仕事の定義を「試合」から「トレーニング(Training)」へと、自分の中で書き換えたことでした。

 

ある時、ふと思ったんです。「筋肉って、どうやって大きくなるんだっけ?」と。

 

答えはシンプルです。強い「負荷」をかけて、筋繊維を一度壊す。そして、栄養を与えて休ませることで、以前より太く修復される(超回復)。

 

つまり、「負荷(失敗)」がかからない限り、成長はあり得ないということです。

 

もし、毎日が「絶対に負けてはいけない試合」だとしたら、失敗はただの恐怖です。

 

でも、もし毎日が「自分を強くするためのトレーニング」だとしたら?

 

失敗の意味は、180度変わります。

 

企画がボツになった。それは「嫌なこと」ではなく、今の自分の筋力では持ち上げられない重り(負荷)に挑んだ証拠です。

 

筋繊維がブチブチと音を立てるほどのストレスがかかった。それは見方を変えれば、「最高にいいトレーニングができた」ということなんじゃないか。

 

そう考えるようにしてから、失敗した時の第一声が変わりました。「うわ、最悪だ」ではなく、「うわ、めっちゃ効いてる(筋肉に)」と思えるようになったんです。

 

痛みは「成長痛」だと伝えてみる

 

冒頭の部下に、僕は自分の失敗談を交えて、そんな話をしました。

 

「俺も昔、企画が通らなくてめちゃくちゃ凹んだことがあるんだけどさ」

 

そう前置きして、こう伝えました。

 

「今、めちゃくちゃ辛いよな。でもそれ、もしかしたら『怪我』じゃなくて『成長痛(筋肉痛)』かもしれないよ。いいトレーニングをした証拠だと思って、今日は美味しいものでも食べて、しっかり寝よう」

 

教えるのではなく、ただ「そういう見方もあるよ」と選択肢を置くように話しました。

 

すると、彼の表情から、少しだけ悲壮感が消えた気がしました。

 

「…筋肉痛、ですか。そう思うと、ちょっとだけマシな気がします」

 

「栄養」を摂ることを忘れない

 

ただし、一つだけ気をつけていることがあります。

 

筋トレも、やりっぱなしでは怪我をするだけです。適切な「栄養」が必要です。

 

ビジネスにおける栄養とは、「言語化(振り返り)」だと思います。

 

「痛かったな」で終わらせず、「なぜ持ち上がらなかったのか?」「次はどういうやり方ならいけるか?」を考えること。

 

この栄養補給があって初めて、切れた筋繊維は「強靭な筋肉」や「資産」へと変わります。

 

ただ落ち込んで、酒を飲んで忘れるのは、ジムに行った後にジャンクフードを食べるようなものかもしれません(自戒を込めて…)。

 

物差しを、もう一本

 

僕たちは、つい「勝ち負け」という一本の物差しで、自分や他人を測ってしまいがちです。でも、それではいつか心が持ちません。

 

だから、もう一本。「成長(負荷)」という物差しを、カバンの中に忍ばせておきませんか。

 

「負けたけど、いい負荷がかかったな」「今日はいいトレーニングができたな」

 

そう思える夜が増えれば、僕たちはもっと長く、しなやかに、このビジネスというフィールドを走り続けられる気がします。